宮下典子隊員の日誌

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2008年3月2日

ここにいると、楽にできることなんて一つもないというくらい、次から次へと困ったことがおこる。つくづく自分の無力さを感じる。家の中は快適で暖かいけれど一歩外へ出て、もし万が一道に迷いでもしたら命の保障はないし、厳しい寒さのなかでは、しっかりした暖かい衣類がなければあっという間に凍えてしまう。見知らぬ土地で、一から十までわからないことばかりだから、一つ一つ聞いて、解決していくしかない。

こんなに遠くまで来て、どれだけたくさんのものに守られて生きているのかがわかるなんて。人間には、食べるものも、家も、太陽も、水も、空気も、眠る場所も必要だし、ただ冗談を言って笑ったり、困ったことを打ち明けられる人もなくては、生きているのが辛いだけになる。毎日毎日、本当にたくさんの人に助けられている。物質的にも、精神的にも。

昨日の夜も、インターネット電話用のマイクが突然こわれた。新しいものを買おうにも、そんなものを売っている店はないし、取り寄せるには2週間かかる。たまたまホテルに滞在している7歳の男の子のお父さんが持っていたので、学校との交信の時には貸してもらえるようになった。

冒険する人は、自分の強さを確かめたいために行くのかと思っていたけれど、じっさい冒険の始めにつくづく感じるのは、自分の「なんにもできなさ」なのかもしれない。でも、なにもないから、与えられたときに、感謝する気持ちがあふれる。助けを求めることで、人とつながれ、助け合うことをしる。
時には冒険に出て、なんにもできない自分からはじめてみるのも、悪くない。

宮下 典子

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