宮下典子隊員の日誌

2008年2月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29  
2008年3月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31          
2008年4月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30
2008年5月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
>>他の隊員の日記を読む

2008年3月6日

出発の朝、いろいろすることはあるのに何も手につかないといった感じで、橇などの装備が置いてあるガレージと部屋を、ふらふらと行ったり来たりしていたら、玄関に現れたマイクに呼び止められた。「今日なら最高の朝日が見られるよ。さあ、早く車にのって!」

もう5日も前から、丘の上からの朝日を見に連れて行ってもらう約束を楽しみにしていたのだけれど、あるときはマイクの仕事が忙しく、あるときは雲が多く、あるときはブリザードでという具合に延び延びになっていたのが、よりによって今日という日になるなんて。でも丘の上に行けば、大場さんと長谷さんの進んで行く進路が見えるに違いないから、呼びに行って一緒に行った方がいいと思って、声をかけて急いで車に乗り込んだ。


3月6日の朝日

丘の上につくと、丸く輝く朝日がうっすらと雪がおおう平原に輝いていた。360度の視界を朝焼けが照らして、それを浴びる人間の表情を、不思議なくらい豊かに美しく輝かせる。ホテルからこの丘の周辺は、風が雪を吹き飛ばしてしまうためにゴツゴツした地面がむき出して橇を傷めてしまうことがわかった。急きょ計画変更で、3キロほど先の川の近くまでは、車で橇ごと運んでもらうことに変更した。


海の方から見た、レゾリュート・ベイ。中央左の一番大きな建物が学校。その右の背の高い建物がお役所。

いよいよ出発のとき、ビデオでの画面から見る二人は、本当にいい顔をしていた。何かが始まる期待に満ちていて、もう前に進んでいくしかないという覚悟を決めた人だけがもっている、爽やかな笑顔だった。広い雪原の中で、とうとう二つの黒い点になった二人を見送り終わるころにはもう寒さが限界になり、手指の感覚は消えていた。


出発していく大場隊員と長谷隊員。

無事に見送りを終えてほっとしながら、私もワクワクする気持ちが湧き上がってくる。帰りは、再びマイクの運転で、いくつか寄り道をしながらレゾリュート・ベイをドライブした。


500年前といわれていたが、最近の調査で2000年前のものだという説もでてきた鯨の骨の、はるか昔のイヌイットの家の遺跡。この周りを動物の皮でおおっていたらしい。

犬ぞり用の犬たち。この3匹は、まだ1歳以下の若者たち。

カラスが沢山いるのは、古いゴミ捨て場の近く。本当にその身体で空が飛べるのかというくらい太っている。

「まったく、あと5分早く出発していたら最高の朝日が見られたのにねぇ…」と、もったいなさそうに、ちょっと責めるように、その日一日中、マイクは私の顔を見るたびに小言のように言い続けた。朝日の生まれる瞬間を見逃したのはたしかに残念だったけれど、これ以上ないというくらいの素晴らしい天気に祝福された、冒険の旅への出発だった。

宮下 典子

連絡先