宮下典子隊員の日誌

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2008年5月31日

旅の終わり、季節の終わり、そしてはじまりの旅

雪がすっかり溶け切った茶色い砂の道を歩いていると、チュンチュルンという、ユキホオジロのさえずる音が聞こえてきた。季節が変わっていく知らせは、ふとした一瞬に、驚くほどの説得力をもってやってくる。まだ見渡すかぎりの海はしっかり凍っていて、ここレゾリュートの海が完全に開くのは8月まで待たなければならないというのに、鳥のさえずりや、足元に咲く花が小さな自己主張をして、季節がとどまっていないことを知らせている。

3月6日、まだ暗く長い夜があり、気温は−40度ほどの寒さだった冬にスタートした大場さんの長い旅。およそ3ヶ月、毎日先へ先へと、ゴールを目指して進む真剣勝負の日々。大場さんの目指す道のりを、衛星写真、過去に通ったことのある人達、上空を飛ぶパイロットなど、思いつく限りの手段を使って調べながら、ゴールを目指してきた。誰もが、簡単な道のりではないと言った。そして、Lake Hazenを目指す途上、まったく雪がなくなり、引き返すことを考えたこともあった。何度も何度も、もうここまでかと思った。でも、大場さんは最後の最後まで進んだ。そしてたどり着いたのは、設定した目標地点のワードハント島ではなかったけれど、ピックアップの要請と冒険の終了を伝えてきたときの大場さんの電話の声は、何かにたどり着いたと悟った人の、爽やかさと確信のまじったぬくもりがあった。

大場さんが通る予定だったPiper Passの氷河湖は、この季節には凍っているというのが大方の意見だった。そして確かに凍っていたけれど、まさか雪解け水が湖に流れ込んでいることまでは予想できなかった。まさに今、その場に行ってみた大場さんにしかわからないことだった。

「地球の今を肌で感じる」という大場さんの言葉。そこには、どんなに体力や気力が充実していても、変えることの難しい環境の中で、それでも夢を描き、悔しさも、喜びも、地球と一つになって体験することなのかもしれないと思った。大切なのは、最後までやりとおすこと。そこで見える景色がきっと、次にやるべき仕事を教えてくれる。一つの冒険は次の冒険の種となり、たった一人の挑戦が、多くの人の夢となり得る。

姿が見えなくても、そこに確かに生きている動物たちの気配、奇跡のような風景。北極圏が地球にあることが、どれほど素敵なことか、どれほど大切なことか。私はその価値をほんの少しもわかっていなかったということを、痛いほど感じた。その痛みが、私のこの旅からもらった、大切な種です。

宮下 典子

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