宮下典子隊員の日誌

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2008年3月15日

グリスフィヨルドを発った飛行機は、エルズミア島の沿岸上を飛んでいった。そのときに見えた景色を表現する言葉を、私は知らない。人間の言葉ではとうてい表現しきれないような、人間が住みつくことを簡単には許さないような土地が、そこには広がっていた。凍りついた窓を指でこすっては顔をぴったりとつけて、ただただ眼下に見える地球の姿に目と心を奪われた。

しばらく飛んで、レゾリュートベイがあるコーンウォリス島上空に入った。じぃーっとその大地を見ていると、川沿いに本当に小さな二つの黒い点が見えた。本当に、ごま塩のように小さい点だった。まさか、と思った瞬間、前の座席に座っていたレイモンドが、「友達はこの辺にいるんじゃない?」と冗談みたいに言った。

レゾリュートベイに着いて、土岐さんやホテルにいる人達に「二人を見た」と言ったら、それは無理だろうと笑った。でもあの二つの点は間違いなく二人だったような気がして、ちょうど休憩していたパイロットのトロイをつかまえて、今日の飛行ルートと、昨夜の交信で確認した冒険隊の緯度経度を照らし合わせてみた。位置は見事に一致していた。

出発の日に成田空港で、プロのカメラマンの土岐さんに、いい写真を撮る方法をたずねたことがあった。すると、土岐さんはこう言った。「目の前に見えているものを写そうとしないことですよ。写真は心で撮るのです」。それから、私たちの間で「心で」は、ちょっとした流行語になっていた。見えるはずのなかった冒険隊が見えたのは、確かに、必死に探していた心の働きがあったからだろう。

大場さんがよく言う、極地で感じる「地球の大きさ、美しさ、そして怖さ」。冒険隊は、なかなか人間が踏破することのない土地、いわば人間の生存圏ではないような場所に、あえて足を踏み入れている。そこに行くことでしか伝えられないものを探りながら、自分の力で一歩一歩進んでいる。

空を飛ぶ飛行機の窓から、ひととき眺めただけの私には感じられなかったものを、二人に教えて欲しい。そして、前に進もうとする二人の心の中にあるものを、もっともっと知りたいと思った。

宮下 典子

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