2008年3月10日
3月6日に、予定通り、私と長谷さんはレゾリュートを出発した。気温が朝方で-37℃。
今週のルートはコーンウォリス島の内陸(山越え)を北東に進むことになった。初めに考えていたウェリントンチャンネル(海峡)の海氷が薄く、また、レゾリュートから東へウェリントン海峡に行く途中の海氷上では、白熊がとても多く、危険だということを考えての判断である。日本と違い、北極では海氷(乱氷帯)の中で仔熊を産み、育てるのだ。
コーンウォリス島の内陸部は、山頂部周辺は雪が少なく石が現れている。しかも鋭くとがっている小石の山といったところだ。従って、川沿い(山と山の間)をジグザグに進む形をとる。谷間には吹きだまった雪が集まり、ソリを引き歩ける状態になっているのだ。
険しい谷間を進む大場隊員
レゾリュート近辺の山々にはキツネが多く、私たちが歩いていると、「ギャアー、ギャアー」とも、「カアー、カアー」とも聞こえる叫び声をあげ、山の頂きで私たちを見下ろしている。初め、カラスの鳴き声かと思ったが、何とキツネの鳴き声なのでびっくりしてしまう。近づいて行くと逃げ去ってしまい、先ほどの場所は巣穴のようで、雪を掘り、直径10cm大の入り口を作り、奥へと続いている。カラス(レイブン)も1羽だけで、カアーと鳴き声をあげて私たちの上空を飛び去る。
雪の中から草も見え、10cm程の長さに成長するようで、今は枯れているが、北極ウサギなどが餌にしているのだろうし、ジャコウウシも食しているようだ。次第に山奥へ入るに従い、動物の足跡や姿も見られなくなり、急峻な崖(岩山)の谷間と、あまり草も生えていない石ころの山が続くようになってきた。
私たちは、朝7:30に起床し、朝食をとり、出発が10:00頃になってしまう。-40度の気温下では、全てのことを考え、要領良く進めなくてはならないのだが、まだ思考と体の動きが連動していないようで、通常の3倍ほどの時間がかかってしまう。
北極に来ると、3倍時間がかかる。いや、3倍遅く、確実に物事を進めないと、厳しい自然に手厳しいダメージを食らってしまうのだ。
【サンドッグ】 太陽光線が空中のダイヤモンド・ダストに反射して、太陽の周囲のリングに幻の太陽をいくつか映し出す現象。
まだまだ太陽も、地平線から昇ったばかりだ。日に日に暖かくなるとソリの滑りも良くなり、距離を稼げるであろう。今の状態では、粉雪の上を滑るというより、砂の上でソリを引き歩いているように重く、のろい行進である。
ただ、私も長谷さんも体調は良く、食欲もあり、元気だ。
大場 満郎