2008年4月16日
グリス・フィヨルドに今滞在しているが、実は今回で2度目の訪問である。一回目は19年前だ。
今回同様にレゾリュートからグリス・フィヨルドまで450kmを25日間ほどでそりを引き単独で歩いている。19年前と今を比べると、断然以前の方が寒く感じられる。空気も冷たくはく息も真っ白で、蒸気機関車が白い煙を吐き出し走るようなものであった。でも今回はそんな日はほとんどなく、小春日和りのような日が多いのだ。まったく当時のあの恐ろしいような寒さはどこにいってしまったのだろう。
イヌイットのハンターたちも最近のこの暖かさを嘆いている。 暖かいと海氷が薄くなり、スノーモービルでも犬ぞりを利用しても、危険が高くなってくる。彼らは昔は2月、3月、4月はどこにでも行けたと言う。 寒かったので海がすべて凍りどこへでも行くことができたのだろう。それが最近では冬期間でも海水面が現われ、また海氷が薄い地が広がり猟期が短くなるとともに、食物を捕るのが難しくなりつつあると話してくれた。要するに死活問題となっているのだ。
イヌイットの若者たちも、この地球温暖化の波に飲み込まれる形でその生き方変えつつあるようだ。猟をする人もおれば、やめて他の仕事を始める人もいるようだ。猟に出なければ自然とアザラシやカリブーやジャコウウシといった今まで彼等イヌイットの食糧となっていたものも食べる機会が減ってくる。つまり伝統的な食文化が崩壊してしまう。現にそうなりつつあるのだ。食文化が変わり、冷凍食品などに頼るようになると健康問題に発展してくる。
ここ、グリス・フィヨルドでもほとんど若者たちの村といっていいほど若い人たちが多い。あまり長生きできないということだろうか、何が原因なのだろうか。これは食べ物の変化、生活の変化が左右していることも否定できないだろう。「私のおじさんは一日で45km先のあの岬まで狩に行き戻ってきた。しかも、犬が二頭しかいないのだ。自分の足で走ったと聞いている」と話す。現代はスノーモービルという動力で一気に広大な地域を駆け抜けることができるようになったが、その便利さの影に、生きる力、体力的な弱さという根源的なものと引きかえにしてきたように思える。
大場 満郎