大場満郎隊員の日誌

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2008年5月29日

ジャコウウシを見た

山から急な川を下っていくと、前方の山に真っ黒なものが見える。しかも動くではないか。何だろう、と思ってよく見たら、ジャコウウシだ。しかも、7頭ほどの群れをなし、山の上の高台で、皆、私の方を見ている。急ぎソリからビデオカメラを取り出し、撮影する。距離は約100m。もう少し動いてくれよ、立っているだけじゃ面白くない、と思いながら撮影した。私がソリを引きながら近づいて行くと、びっくりし、急ぎ足で遠ざかっていった。

雪が消え、石ころだらけの川原をソリを引き、夢中で歩いていると、すぐ目の前にジャコウウシが一頭おり、私に背を向けて、私と同じ方向へ逃げ去っていく。大きなジャコウウシである。やっと大きな川原へ出るところに、行き止まりの高さ5〜6mの垂直に切り立った岩山があり、このジャコウウシはその上で私が通るのを待ち構えていた。正直言ってびっくりした。私と一対一で戦うつもりなのか。お前はそこから飛び降り、私に突進してくるのか。…と身震いする思いだった。しかし、気を取り直し、ビデオカメラを回し、デジカメでも撮影させていただいた。今度は5〜6mほどの距離である。目や角や毛が手に取るように見える。風になびく長い毛がふさふさして揺れ、顔立ちは「物凄い」といえば相手に失礼にあたるが、さすがに「氷河期からの生き残り」と言われる通りの風格を備えており、尊敬の気持ちが芽生えるを覚えた。「そうか、お前が群れのボスで、家族を守るために私をここまで誘い込んだのか」と思った。

私は戦う気は無いので、わざと平静を装い、背を向けて独り言を言って撮影した。すると、相手も同じように落ち着きを取り戻してくれるのが、見て感じ取れる。私の動きが素早かったり、変な動作をすると、「フゥーッ」と、大きな息吹で威嚇してくる。頭を下げ、角を岩場に当てるようにして、戦闘体勢に入るようである。これは、ホッキョクグマでも同じで、こちらが威嚇したり、大声を出したり、走ったりすると、相手の戦う意欲を引き出してしまい、危険なのである。私としては、「ありがとう。皆さんにお前のことをしっかり紹介したいので、いい顔で写真を撮らせてね」という気持ちでいた。すると相手も知らん振りをして、どこか見ているような装いをしている。野生動物は意味無く戦うということは無く、自分を守る時のみ戦うようであり、人間も見習わなければならないと思う。

今年生まれたばかりの赤ちゃんジャコウウシもいたし、横へ寝そべったりしてるやつもいた。 ジャコウウシのいる所は、雪がすっかり解け、暖かく、草が良く育つ環境下であった。地球温暖化で、暖かくなり、草の生える時間が長くなれば、ジャコウウシたちは良く食べ、元気になり、子どもを育てやすくなっていくだろう。

「平成のシーラカンス」とでも呼べるほど、ジャコウウシの頭、顔、体型はすごいものだよ。写真を楽しみにしていてください。

大場 満郎

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