いよいよ出発の日となった。朝、パイロットと連絡を取り、荷物を空港まで運ぶ。
ヘリコプターに荷物を積み込んであっという間に出発。
出発前、パイロットのArne(アーネ)と打ち合わせをする。
今回は荷物が多いので2回に分けて運ぶことになった。まず、大場、長谷がヘリコプターに乗り込み、氷床まで飛ぶ。
途中、山の谷間に氷河が見える。うすいブルーの氷河は、
クレバスだらけの危険な香りを消し去るほどきれいで思わず見とれてしまう。
チャーター機から眺める氷河、何ともいえぬ美しさだ。
山を越えると氷床が見えてきた。見渡す限りまっ白、まっ平らで方向感覚、距離感覚が無くなってくる。
今まで体験したことのない不思議な感覚だ。
着陸地点は61°34′48″N(北緯61度 34分 48秒)、45°47′60″W(西経45度・47分・60秒)。
荷物を降ろし、宮下さんが来るまで一時間ほど待つ。そうしている間に、雪が降って少し視界が悪くなってきた。
宮下さんが到着後、ヘリから荷物を降ろすと、天気が悪いのですぐに飛び立つことに。
飛び立った後、荷物を振り分け、ソリに積む。思ったより雪が深く、荷物が重い(110kg)ので思うように進めない。
今日は天気も悪いし、初日なので無理せず、200mほど進んでテントを設営。
テントに入ってもやることは山のようにある。まずストーブに火をつけ、雪を溶かしてお湯を沸かす。
コーヒーや紅茶を飲んで体を温め、一息つく。次にポットにお湯を入れるため、何度かお湯を沸かす。
イリジウムを使ってベースキャンプの宮下さんと連絡を取る。GPSで位置確認。
ノートとパソコンの両方で日記を書き、インマルサットでメールを送る。
そうして、ようやく食事をとる。
今回の食事はぺミカンといって、聖徳栄養短期大学の荒木先生、
明治食品と明治製菓に作っていただいた高カロリーな極地探検用の特別食だ。
朝夕はフリーズドライにした肉や野菜がバランスよく入ったものをお湯で溶かして食べる。
昼は行動しているので、簡単に食べられるように、ゴマや松の実、
干しブドウなどが入ったチョコレートバーを食べる。
食事をしたら、歯を磨き、寝るという感じです。
それではおやすみなさい。
4月7日に書かれた出発当日(4月5日)の回想
グリーンランド南端のナルサスアックに6日間滞在し、旅の準備が整ったので、4月5日に出発することができた。
ユースホステル(私たちの宿)から、ソリ、テント、寝袋、食料、
そして通信機器等の装備をトレーラーに積み込み、車で3分程のところにある空港に移動する。
天気は快晴で青空に真っ白な雪山がくっきりと美しく輝いている。
快晴の日、ユースホステルの前で。
長谷隊員と出発前の打ち合わせ。
ヘリコプターの座席を取り外して装備を積み込み、後部座席に長谷君と私が乗り込み、
シートベルトを付け、パイロットと話すことが可能となるヘッドホンをかぶると、緊張感が増してくる。
1回目は私と長谷君が、内陸氷床の出発地点に飛ぶ。
眼下にはノコギリの刃の様にギザギザに割れた氷河が岩山の谷間を縫うように、海に向かって続いている。
美しいともいえるが、怖い気もする。氷河の始まる氷床にヘリコプターがたどり着くと、
真っ白な雪面が周囲を地平線まで包んでいる。
岩山の谷間を縫うように、海に向かって続いている氷河。
ここが内陸氷床なのだ。ベースマネージャーの宮下典子さんと、残りの装備を運ぶため、
ヘリコプターは、私たちと荷物を降ろして、すぐ又、空港に引き返してゆく。
すぐ近く100mほどの所に、高さが200m程のヌナタック(岩山の、頂上部分)が黒い岩肌を現している。
この山の高さが2222mなので私たちの立っている氷床は、およそ標高が2000mほどである。
標高2000mの出発地点、背後は高さ222mのヌナタック。
待つこと1時間ほどで、典子さんの乗ったヘリコプターが飛んできた。装備を降ろし、写真を撮り、
あわただしくヘリコプターは典子さんを乗せ、飛び去っていった。
天候が急変したのだ。ヘリコプターは有視界飛行なので、雪面を確認しながら飛ぶのだ。
雪と空の境目が見えないと危ないので、飛べなくなってしまうのだ。
私と長谷君はソリに装備を積み、スキーにシールを張って引いてみる。重い、
重すぎてソリが動かない。雪は柔らかく、深く、110kg程のソリは雪の中にもぐり込む状態だ。
気温が高く(-1℃)、風も弱いので、雪が固く締まっていないのだ。北緯61°34′、
しかも2000m近い山の上で、こんなに気温が高いとは、この時期、想像していなかった。
この日は200mほどソリを引き、テントを設営する。旅の始めは、体と気持ちが現地の環境に慣れるまで、
ゆっくり、あせらず行くことが大切なのだ。
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