過去に滞在した日本人
朝9:15に遠征隊から衛星電話が入った。現在、北緯83度05分・西経72度57分。
気温−31℃、気圧1025Hp、曇りで風はない。昨日も、8kmしか進めなかったという。
ガレージ内で作業をしていると、過去にここを拠点とした遠征隊のものが多く見つかる。
日本隊のものでは、河野兵一さん(1997年に日本人で初めて単独徒歩で北極点に到達)が、
2000年に北極点から愛媛県瀬戸町の自宅まで歩いて帰るという企画(リーチングホーム)の時に、
6名のサポート隊が残していったと思われるものがいくつか出てきた。
ところが、この旅の途中、河野さんは極点より700km程歩いたところで遭難した。
その7日後、河野さんは零下10度の氷海の中から発見された。
ワード・ハント島迄歩いてあと3日という場所で事故にあった。
河野さんは、自分が出したゴミにも徹底した意識を持っていた。
サポート隊が、わざわざ飛行機を飛ばして河野さんが集積したゴミを回収したのである。
そこに費やすサポート隊の危険と苦労、金額は莫大である。
間のにおいがついたもの、あるいは人間が食べるものなどを海氷上へ安易に捨てたりすると、
生態系を崩す可能性が大いにある。そこにまで予算をまわすことは、想像以上に難しいことである。
(航空会社は我々の企画のすばらしさを理解してくれたため、
全航空運賃分を協力してもらっているが、参考のために挙げる。
ここレゾリュート・ベイからワード・ハント島まで直線にして約1,000kmのチャーター航空運賃は約250万円)これは、
人間が住まない土地を通らせてもらうという、動物に対する謙虚な気持ちと、
自然環境に迷惑をかけないという心意気の表れではないだろうか?
我が遠征隊のゴミはというと、各自がソリに積んで持ち帰ってくる。
河野さんは、アドベンチャー・サイクリスト・クラブという、
主に海外を自転車で周る旅人たちが集うクラブに在籍しており、
私も同じく所属しているので、彼のことは知っていた。
また、オートバイによる史上初の北極点到達(1987年)者、
風間深志さん(1992年には、オートバイによる史上初の南極点到達を成功させた。
この時点でオートバイでの両極点到達史上初となる)や、
日本人女性で初めて北極点へ到達(1989年)した女優の和泉雅子さんもレゾリュート・ベイに滞在している。
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凍った北極海を空撮
ただただ白く、ただただ広い
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小林丈一
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