2004年4月2日

待ち望んでいた荷物の到着

ついに、ついに、待ちに待っていた荷物が到着。快晴の空の下、チャーターで届いた荷物へ向かうとき、 自然と駆け足になった。大場さんは、嬉しさを隠しきれない様子で、「ヤッホー!!」と叫んだ。23箱、全部が破損なく届いた。


待ちに待った23箱が無事到着、これですべての装備が揃った。

ユースに運んで、荷ほどきを始めると、今までの不安やイライラが嘘のように解けて消えていった。 しっかりパッキングされた箱を一つ一つあけ、装備の無事をかみしめながら体を動かしていると、 どんどん気持ちがウキウキしてきた。大場さんには、「さすが、女性は気持ちの切り替えが早いなぁ」と言われた。

夕方、パイロットのArneと会うことができた。氷床へ向かうヘリを操縦してくれる。 こちらから出かけていこうと思っていたら、いきなり、「Hi!」とポーチからユースの食堂に入ってきた。 大柄で、黒髪の、凛々(りり)しい面立ち。あまりにも感じがいいので、大場さんもすぐに気にって、 ゴールドウインの社長からいただいたお土産用の靴下を素早く持ってきて、プレゼントしていた。

2メートルあるソリが、小さなヘリに乗るかどうか、実際に積んでみて確認する必要があった。 もし乗らなければ、下につるして運ぶしかない。というわけで、翌日、ソリをヘリ倉庫に持っていき、確かめることになった。 Arneに何時が都合がいい?と聞くと、「いつでも」と言う。ユースのジャッキーさんもそうだ。 準備ができたら連絡して、という言い方をする。 こんな中からも、ゆとりのある、時間に縛られない、グリーンランドの生活を垣間見た気がした。


吹雪号と爺ちゃん

夜、届いた食料で夕食を作った。20時をすぎないと日が暮れ始めないので、自然と夕食は遅めになる。 明治食品から頂いた雑炊(ぞうすい)におもちを入れたものや、魚の煮付けをおなかいっぱい食べた。 満たされて、安心して、ほのかな明かりの下、食卓を囲んでいると、自ずと、心を開いて語り合う空気が訪れた。

夕食後、夜の静けさを窓の外に感じながら、大場さんの人生を変えた出会い、 鷹匠(たかじょう)の沓沢朝治さんこと「爺ちゃん」の話に聞き入った。 沓沢さんを追いかけたドキュメンタリー「老人と鷹」は、カンヌ国際映画祭でも賞を受け、 日本の狩猟文化を伝える貴重な記録となっている。


夜7時半頃、外はまだ明るい。

一冬でウサギ300羽をしとめるほどの名鷹「吹雪号」と、沓沢老人が顔を近づけあい、 唇とくちばしでキスするところを見たとき、大場少年はふるえるほど感動し、 自分も爺ちゃんみたいに鷹飼って、自分の好きなことを極めて生きていきたいと思ったのだという。

鷹に憧れて、寝ても覚めても鷹のことばかり考えていた。母親は、鷹飼うなんて気がおかしい、 農家の長男坊が何言ってる、と猛反対をした。憧れて憧れて病気になるほどだったのを見た沓沢老人が、 大場家までやってきて「どうか鷹飼わせてやってけろ。その分、人の2倍、3倍は一生懸命農作業するようさ言うから」と、 ペコリ頭下げてくれたのだという。

「迷わず進め、正直の道」という沓沢老人の言葉は、大場さんのその後の人生の指針、座右の銘となった。 14歳、故郷の山形、最上での出会いだった。


冴え凍る夜空に浮かぶ、グリーンランドの月。

    


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