補給の準備開始!
エクスペディションには予想もつかないことが起こる。それは覚悟していたけれど、
長谷さんから「スキーセールと棒をつなぐもの」を補給して欲しいという注文が来たときは、途方に暮れてしまった。
最初、長谷さんも、その部品が何という名前なのか思い出せないと言うし、こっちも何がなんだかわからなかった。
それを写真に撮ってメールで送ってもらい、まずは、名前は「タイアップ」というものだということがわかった。
同時に、スキーセールの凧(たこ)が大きくやぶけたので、それを補修(ほしゅう)するいい方法はないか、という相談も受けた。
長谷さんは、最初氷床にミシンを持ってきて縫(ぬ)えないかな、と言っていた(電圧が足りないので無理)。
地元の奥さんたちを氷床に連れて行って、急いでチクチク縫ってもらう、ということまで考えた。
とにかく、24平方メートルのスキーセールを直すいい方法を見つけなければならなかった。
カンゲルスアックでも、ウマナックでも、人に聞いても店を探し回っても(店と行っても一つの町に3件程度だけど)タイアップは見つからなかった。
カンゲルスアックでは、日常生活物資以外のものを探すなら、グリーンランドの店を探すより、デンマークから取り寄せた方が早いよ、
と言われた。ウマナックでは売り切れていて、漁が盛んではない今の時期は、あまり需要(じゅよう)がないのでまだ取り寄せていないということだった。
日本の事務局が、間に合うかどうかわかならいけれど、至急タイアップを郵便でおくるという連絡をくれた。
しかし、日本からグリーンランドまでは、天候次第で早くて10日、遅ければ3週間から1ヶ月もかかることもある。
なんとか、ウマナックで手に入れなければならないと思っていた。また、破けたスキーセールの方は、
スキーセールに詳しいノルウェーの大場さんの友人から、「スピンネーカー・テープ」というものがあれば、
縫わずにテープで補修できるという情報が入ってきていた。
「幸運の女神」がいるのなら、きっと地球縦回り一周の旅を応援してくれているに違いないと思いたくなるくらい、
不思議なほど、助けが欲しいときに、助けてくれる人が現れる。
ウマナックの店で、タイアップの代わりになるものはないかと、品物を物色していたら、
補給のチャーター・ヘリコプターのパイロットのラースとばったり出くわした。
ウマナックへ来るときのパイロットがラースだったので、もう顔見知りになっていたのだ。
エアー・グリーンランドのヘリ倉庫。
パイロットのラースはこのヘリコプターに「チョッパー」というニックネームをつけていた。
念入りに「チョッパー」を整備するプレベン。
見本に持ってきた小さいスキーセールを見せながら、タイアップと、スキーセールをなおすテープを探しているとラースに言うと、
タイアップなら、エア・グリーンランドのヘリの倉庫にいっぱいあるし、
テープは、スペース・シャトルでも使う薄くて丈夫なのがあるから、それが使えるだろうという。
ヘリの倉庫で、とうとうテープとタイアップを手に入れたときは、嬉しくて、小躍りしたい気分だった。
とうとう見つけたタイアップ(白くて細長いストラップ)とスピンネーカー・テープ!
スキー・ストックを探せ
カンゲルスアックで荷物を預け、カースーという中継地で荷物を受け取ろうとした時、
ヌークから半月以上旅をともにしてきた大場さん用のスキー・ストックがないのに気がついた。
タグの付け間違いで、どうやらデンマークのコペンハーゲンに行ってしまったらしいという。
とりあえず、できる限りの捜索(そうさく)願いを出しておく一方で、
ウマナックで代わりのストックを探さなければならなくなってしまった。
ウマナックでは、スキーをする人はまずいない。岩山は険しすぎて、アルペンにも、クロスカントリーにも適していないのだ。
だから、荷物になるのを承知で、ヌークで買っておいたのに、補給直前になって失くしてしまったのだ。
でも、困ったときのエア・グリーンランド。パイロットのビスコが、友達のアメリカ人なら持っているかも知れないといって、
彼の家に連れて行ってくれた。ニールはアメリカのペンシルバニア出身、グリーンランドに来て8年になる。
ノルウェー人の奥さん、トネとの間に、2人の女の子がいる。グリーンランド育ちの二人の子供たちは、
英語よりもグリーンランド語の方が得意らしい。
パイロットのビスコ(左)とラース。
ビスコの身長は193センチ。ビスコの持っているのはイッカクの牙。長さは2メートル以上。
整備担当のプレベン。 なんだか初めてあった気がしない、親しみのわく顔をしていた。
ニールとトネ夫妻のストックをいくつか見せてもらったら、ちょうど良さそうなサイズがあった。
トネは身長165センチで、ちょうど大場さんと同じくらいだ。事情を説明して、
トネのクロスカントリー用のストックを借りることができた。
10年以上前に、ノルウェーで買ったものらしい。
アメリカ出身のニールとパイロットのビスコ。 乗っているのは雪上車。
どうにかこうにか、いろいろな人の助けを借りながら、じょじょに補給物資は集まっていった。
大場さんと長谷さんも、順調に補給予定地点、北緯70度、西経47度に近づいている。
物資と位置と天気、すべてが最高にそろった日時の補給を目指して、あとは入念に準備を整えるばかりだ。
|