グリーンランドのグルメ料理と、オーロラの夜
グリーンランドの首都ヌークには、洗練された料理を出す店がいくつかあるが、
なかでもレストラン・ニピサ(Nipisa)はグリーンランドの新鮮な食材を使い、ヨーロッパのみならず、
エスニックからオリエンタル、日本料理まで、様々な料理の影響をうけた多彩なメニューで、
訪れる人を存分に楽しませてくれる。店名の「ニピサ」とは、グリーンランドで長く厳しい冬が終わり、
海の氷がとけ始める春先に旬をむかえる、ピンク色の魚の名前だそうだ。
レストラン・ニピサ、ヌークの中心部にある。
ニピサには、去年ヨーロッパで開催された料理大会で入賞を果たしたほどの腕のいいコックがいる。
ヨーロッパ中のレストラン422店が大会事務局にレシピを送り、10店に絞られた中にニピサは選ばれた。
ストックホルムの、5万人の観客の見守るキッチン・スタジアムで、グリーンランドの食材を使った、
想像力豊かな料理を披露したそうだ。
ルネとギッテの夫婦。ニピサは、二人が1999年に開店した。
7品のコース料理は2週間ごとに変わり、魚介類はおもにグリーンランド近海でとれるエビ、タラ、オヒョウ、
肉類はジューシーな南グリーンランドのラム、野生のレインディアー(トナカイ)、
ムスク・オックス(ジャコウ牛)を使っている。「グリーンランドの食事」というと、
まずアザラシの肉を思い浮かべる人が多いが、アザラシを使ったメニューのある店は、
グリーンランドには一軒もないそうだ。なぜなら、アザラシはもっぱら家庭で食べるようなものだから、
外で食べたいと思うグリーンランド人は、まずいないからだという。
コックのルネと、水揚げされたばかりのオヒョウ
ニピサでは、料理はコースにしなくても、アラカルトで好きなメニューを注文することができる。
人気なのは、その日その日に手に入った旬のいい材料を使ってつくる、TODAY'S SPECIAL(本日のスペシャル)だ。
当日の午後、コックが買い出しに行ってからメニューが決まるので何が出てくるかはその日になってみないとわからない。
これを楽しみにくる常連客も多いようだ。
本日のスペシャルのメイン料理は、トナカイのイタリア風ステーキと雷鳥の胸肉、ジャコウ牛のスフレ詰め、
海鳥の燻製(くんせい)の赤ワインソース、キノコのソテー添え。
今日のスペシャル料理。
コース料理のトップの前菜にはGreenlandic sushi(グリーンランド風すし)という名前がついていた。
出てきたのは、貝のハーブマリネとニピサのキャビア、すしエビ(生のエビのことをこう呼ぶそうだ)の天ぷらチリソース。
コースのメインは、ラム、ジャコウ牛、野ウサギのグリル。
グリーンランド風すし。
食事の最後は、グリーンランディック・コーヒーで締めくくられた。
コーヒーに、カルーアとオレンジ・リキュールを加え、グラスごと炎であぶる。
そこにクリームを入れ、ウィスキーを注ぐと、見事にグリーンランドの冬の景色が現れる。
コーヒーの黒は太陽の昇らないPolar Night(ポーラーナイト)の闇、白いクリームは氷、
光りの炎はオーロラの揺らめき。このファンタスティックなコーヒーを一口飲んだら、
のど元がかぁっと熱くなった。凍てつくオーロラの夜に、熱く、
甘いグリーンランディック・コーヒーほどふさわしい飲み物は、他にはないに違いない。
コーヒーを炎であぶる。
コーヒーは闇、クリームは氷、ウィスキーの炎はオーロラ。
ヌークの眠らない夜
夕方、リーシィに借りていたCDを返しに行き、
そこで一緒にKNR−TVの放送を見た(夕方と言っても夜7時過ぎ、明るいのでまだ夜とは思えない)。
この日は、全国ハンドボール大会の決勝があり(ハンドボールはグリーンランドで一番人気のあるスポーツ)、
ヌークチームが優勝したという最新ニュースのあとに、『地球縦回り一周の旅』のニュースは放送された。
氷床の映像(KNRの在庫映像だと思われる)と私へのインタビュー風景に、
グリーンランド語のアナウンスがかぶさった3分くらいのニュースだった。
ニュースが終わったとたん、「今、テレビ見たよ!」とナルサスアックの友人から携帯に文字メールが入ったり、
ホーム・ルールののイヴァロからも、「すごくいいニュースだったわよ!」と、電話がかかってきたりした。
イブニング・ニュースで流れた映像。ホームページの説明をしているところ。
金曜日の夜、この日はKatuaq(文化ホール)で、人気女性ポップ・グループ、セドナのコンサートがあった。
ニピサへの取材が終わったあと(夜中の12時を回っていた)、ちょっと寄ってみると、みんなドリンクやビールを飲み、
踊りながら、ライブを楽しんでいる。文化ホールのフロアは、昼間の静かな空間とはまるで違う、熱気にあふれていた。
女性ポップグループ、セドナのライブ。
夜中1時半頃、そおっとドッタの家の玄関のドアを開けると、なんと、
ドッタとボーイフレンドのイヴァンは、今から出かける準備をしている。
「ノリコ!ちょうどいいところに帰ってきたわ。さあ、出かけるわよ!Let's have fun !」
と言いながら、きれいな赤い色のカットソーを出してきて、たまにはオシャレしなきゃだめよ、
早くこれに着替えて!ということになり、あっという間にもう一度、街へ繰り出すことになった。
Hotel Godhob(ホテル・ゴットホッブ)の一階のクラブは、ものすごいにぎわいだった。
ライブがはじけたあと、大勢がこちらに流れ込んできたようだった。ここにいる間、7,8人の人に、
今日のQanorooq(カノルーク:ニュース番組の名前)に、出てたのはあなたでしょ?と声をかけられた。
ドッタには、「有名人になっちゃったから、もう悪いことはできないわね!」と釘をさされた。
人混みの中で、大柄な、見覚えのある顔が近づいてきた。なんと、大臣のヤンス・ナパトックだった。
ダンス・ミュージックの流れる空間に、違和感なくとけ込んでいる。
あとで、ヌークの友人に、Hotel Godhob(ホテル・ゴットホッブ)でヤンス・ナパトックに会った、
あんなところで会うとは思わなかったから驚いたというと、「週末は、国会議員の約半分が行ってるよ」、
と耳打ちをされた。
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