船が来る
イルリサットに行く予定は、突然キャンセルになり、なんと、もう一週間ウマナックにいることになった。
濃い霧のため、空の便が乱れ、ウマナックから出られなくなったのだ。でも、実はもう少しウマナックにいたいと思っていたので、
内心、このハプニングに感謝した。その理由は、「最初の船」が、もうすぐで港にやってくるからだ。
氷を割りながら、4ヶ月ぶりに食料や物資を積んだ船が、デンマークからやってくる。その船が到着するのを、
ウマナミュー(ウマナックの人々)は、今か今かと心待ちにしているという。「たぶん、今夜か、明日には到着すると思う。
船を見ないでウマナックを離れるなんて、もったいない!」と、言われていたのだ。
濃い霧に、島全体が包まれた。
2月に海が氷ると、食料や生活物資は、すべてヘリコプターで運ぶことになる。定期的に運ぶことになっているが、
天候の悪い日々が続くと食料が届かない。そうすると、スーパーからは牛乳が消えたり、野菜が消えたりする。
ウマナックのヘリポートにあるのは、平均時速185km、乗客は9人まで乗れる、
BELL212というヘリコプターだ(これは実はベトナム戦争で使われていたものであるらしい)。
イルリサットやウパナビックという他の都市へ移動するには、カースーという、
20kmほどのところにある空港で乗り継ぎをしなければならない。ウマナックとカースーの連絡は週2回、火曜日と木曜日だけだ。
朝の6時半から午後まで、一機のヘリコプターが、何度もカースーとウマナックを往復して、乗客と荷物を運ぶのだ。
ウマナックのどこにいても、このハート形の山が見える。
天候不良が続くと、各地への乗り継ぎ、またはデンマークまでの乗り継ぎスケジュールが狂い、
一週間から10日も待たなければならないこともあるという。2,3年前までは、毎日イルリサットへの直行ヘリコプターが出ていたのに、
カースーに空港ができてからは、そのルートはなくなり、ウマナミューたちが島の外へでるのは、ますます不便になってしまったそうだ。
予定変更でウマナックに残留するということを、一緒にウマナック一週犬ぞりトリップに行った女性犬ぞりドライバーのビアテに連絡し、
彼女の学校の仕事が終わるのを待って、高台にある、彼女が一人で暮らす、眺めのいい家に移った。
ビアテは、学校の教師でもあり、オリョウの家族とは、家族ぐるみのつき合いをしているデンマーク人だ。
夜、9時頃、霧のはざまから太陽の陽がさした。 高台に立つ、ビアテの家からの眺め。
ビアテは、グリーンランドの西にある島、フェローアイランドからグリーンランドに移り住んで、10年近くになる。
グリーンランド語が堪能(たんのう)で、グリーンランドの人々の中に入り込んで、
彼らの文化に近づこうとする稀有(けう)なデンマーク人の一人だ。カヤックも犬ぞりも、教師として働きながら、
ウマナック地方のオコシセットという村で、地元の人から学んだのだという。グリーンランドに暮らすデンマーク人は多いが、
その大半は、ほとんどグリーンランド語を話さない。20年グリーンランドに暮らしながら、知っている単語は20コだけだという人もいた。
グリーンランド語を話さなくても、新聞も、ニュースもデンマーク語のものがあるし、多くのグリーンランド人がデンマーク語を話すため、
必要に迫られることがないので、自ら学ぶ意思を保たないと、上達する機会がないのだそうだ。
犬ぞりの犬たちの世話をするビアテ。 家のすぐ下の岩場で飼っている。
生まれて半年になる子犬が2匹いる。 子犬たちは育ち盛りなので、一日2食食べる。
ニャーコンネに続き、またまた予定変更になったけれど、これこそがグリーンランドの醍醐味(だいごみ)なのかもしれない。
飛行機が予定通りに飛ばなかったおかげで、カンゲルスアック空港で出会って結婚したという夫婦もいたし、
「if、もしも、あのとき飛行機が飛んでいたら・・・」で始まる物語は、悲喜(ひき)こもごも、グリーンランドには、たくさんあるに違いない。
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