2004年5月4日

ウマナックへ

カンゲルスアックから、氷床への補給のヘリを飛ばす予定地、ウマナックへ移動する時がやってきた。 ウマナックは、北緯70度(北極点から約600km南)に位置する島で、 標高1,170mの山の裾野(すその)に集落(しゅうらく)が広がっている。人口は約3,000人。 周辺の人口数十人から200人程度の小さな漁村を含めると3,400人くらいにはなるが、 漁師の家族は、季節ごとに村々を転々とするので、 正確な人口統計を取るのは難しいそうだ。

ウマナックの景色は、今までのどの町とも違っていた。海が氷でおおわれ、 氷の上にボートやたくさんのグリーンランド・ハスキーたちが点在している。空気が冷たく、 頭皮に感じるキリッとした冷気が気持ちいい。 それぞれの場所、地域には、それぞれ固有の美しさがあるが、それにしても、ウマナックの険しい岩山と、 凍った海のコントラストの生み出す景観は、並はずれている。ウマナック(Uummannaq)とは、 「ハート形」という意味で、島の中央にそびえるハート形をした岩山に由来しているそうだ。 文字通り、この土地にいるだけで心臓が高なり、ワクワクドキドキしてきた。


氷でおおわれたウマナックの海。


裾野に広がる色とりどりの家々。


ウマナックのハート形の岩山。

ウマナック出身のアレカやアーネに、島のことを聞いていたので、はじめて来たのに、不思議と懐かしい気持ちがした。 それに、ヘリポートに着いたとき、パイロットも、空港のマネージャーも、 私のことやプロジェクトのことをよく知っていたので驚いた。 KNR-TVで見て、そのあとはホームページでルートを調べてチェックしていたらしい。 KNR-TVの力は偉大で、行く先々で、「テレビ見たよ」と言われる。


きれいに干された洗濯物を見ると、生活の匂いが伝わってきて安心する。
奥に見えるのがヘリポート。

観光局のエリザベスのしゃべり方、笑い声は、アレカとそっくりだった。抑揚(よくよう)があり、歌うように話す。 笑い方はコロコロと、本当に楽しそうに笑う。それは、例え英語での会話でも伝わってくるし、 グリーンランド語を話しているのを聞いていても、その特徴は聞き取れた。エリザベスにそのことを言うと、 この抑揚のある話し方は、ウマナック地方の方言なのだという。

グリーンランド語は、大きく三つに分けられる。標準となっている西グリーンランド語、東グリーンランド語、 そしてカーナーク地方の北グリーンランド語だ。発音はかなり違い、日常的に使う単語も、異なることが多いという。 それに加えて、地域ごとの訛(なま)りがあるというわけだ。

例えば、グリーンランド人がよく使う「たぶん」という言葉。西グリーンランド語では「インマカ」という。 クルサクでこれを使ったら、東では「オッパ」と言うんだよ、と訂正された。他にも、ありがとうと言うと、 西では「イッヒッルゥ(どういたしまして)」と返ってくるが、東では「イッティッター(どういたしまして)」だった。 また、東にいたときに「ビッキナ!(すごーい)」を使ったら、その発音は南グリーンランド訛りだと言われた。 「ビッキナ」は南グリーンランドのナルサスアックで覚えた言葉だった。

これから6月、北グリーンランドのカーナークに行ったら、北グリーンランド語にも出会う。3ヶ月、各地方を転々とするので、 言語から食べ物、暮らし方、人々の顔立ちまで、多様性に富んだグリーンランドに触れることができる。

ウマナックでは、島のどこにいても、犬たちの遠吠えが聞こえてくる。氷の上だけでなく、 海岸の崖や、山の斜面にも繋(つな)がれているし、 子犬たちもちょろちょろ道を歩いている。犬ぞりが活躍するウマナックでは特に、犬は身近な存在のようだ。


島中の至る所に犬たちがいる。


黄昏時のウマナック

補給物資の準備のために、広いスペースが必要なので、高台に立つ一軒家を借りた。 観光局のコンテナに預けておいた段ボールを家に運び込み、いよいよ、3ヶ月間の旅の一大イベントである、 氷床チームへの補給に向けて動き出した。

    


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