新聞デビュー
実は、一週間も前から、グリーンランド各地に点在する友人たちから、
メールや電話で、「新聞であなたを見たよ」という知らせをもらっていたのだけれど、
カーナークには新聞の印刷所はなく、印刷所のあるイルリサットからの飛行機も、
天候不良のためキャンセルが続いていたので、ずっと、実物を見ることができずにいたのだ。
その新聞「ATUAGAGDLIUTIT」が、10日遅れでようやくカーナークに届いた。
グリーンランドには新聞は二紙あり、一つが「ATUAGAGDLIUTIT」(週2回)、
もう一つ「SERMITSIAK」(週1回)だ。
大場さん、長谷さんのピックアップ前後から、車を出してくれたり、
世話をしてくれている、大島育雄さんの長女、トクと一緒に店に行くと、
届きたての新聞が並んでいた。なんと、私の記事が一面トップに載っていた。
タイトルは「JAPANIMIOQ ANGALASOQ(グリーンランド語)」
「JAPANER PA AFVEJE(デンマーク語)」
英訳では「A Japanese out of the way」というそうだから、日本語にしたら、
「日本人、道から外れる」とか、そんな感じだろうか。
「ATUAGAGDLIUTIT」通称AG(アギ)5月27日発行
ニャーコンネに一緒に行ったオリョウは、
ときどき新聞にウマナック地方で起こったニュースを送っている地方記者でもある。
ニャーコンネにいるときに、「いいヘッドラインを思いついたよ!」といって、
ニャーコンネの小さな学校のパソコンに打ち込んでいたその記事が、
本当に形になったなんて、信じられない気分だった。
新聞の大きさは、日本のものの半分くらい。
グリーンランド語、そしてデンマーク語の同じ内容の記事が並んで載っている。
トクのボーイフレンドのキムが、内容を訳しながら読んでくれた。
「28才の日本人女性ノリコ・ミヤシタは、氷床縦断エクスぺディションのサポートをしながら、
グリーンランドを南、西、東から北まで周りながら様々なものを見て、
それを日本のホームページで伝えている。
ウマナックから氷床への補給が済んだ翌日、彼女は成り行きで、
イッカク漁に出かけるハンターたちと一緒にニャーコンネへの犬ぞりの旅に出かけた。
アザラシの生の肝臓を食べたり、氷の上で眠ったり、伝統の毛皮の服を着、
そして、ニャーコンネの村では、ほぼ村中のすべての家々を訪ね歩き、
村人たちと交流し『本当のグリーンランドの生活』を体験することができた・・・」<抄訳(しょうやく)>
オオシマ・ファミリー
夕ご飯は、トクが招待してくれた。
長谷さんが、グリーンランドらしい食事をまだ食べたことがないと言ったら、
トクがイッカクのスープを作ってくれた。トクとミカとそれぞれのボーイフレンドたちとの、
にぎやかな食卓だった。22年前に大場さんがグリーンランドを訪れたときのことを、
トクは、はっきり覚えているそうだ。大場さんは当時29才、トクはまだ8才だっだ。
何を食べてもおいしいと感激している大場さんと長谷さんを見ると、
今までの旅の大変さが伝わってくるようだった。
トクの家の食卓。
ミカの娘のニッコリーナ。とても賢く、大島家のアイドル。
この日、シオラパルクの大島さんのところに出かけていった。
夕食後、トクとミカと一緒に、氷った海岸にいる、トクの犬たちの世話に一緒に行った。
トクは自分の犬を7匹持っていて、自分でも犬ぞりを操る。
4才から、小さなソリで、犬ぞりを操っていたそうだ。
トクが、犬たちをつなぐために氷に穴を開け、ヒモと木っ端で杭を作っている間、
ミカがムチを持って犬たちを見ている。犬ぞりを操る女性たちの格好良さには、
きっとどんな男性も叶わないと思う。
そう言っても過言ではないほど、彼女たちには、生命力に満ちた力強い美しさがある。
ミカ(左)とトク(右)。 息のあった二人の手際の良さに感服。
氷に穴を開け、犬をつなぐ杭を作るトク。
今日のご飯はドックフード。
シオラパルクのハンターたちが、4頭のイッカク(デラルワ)を仕留めたという連絡が入った。
ハンターの一人はトクのいとこだった。犬ぞりにイッカクを積んで、
白夜の中、カーナークにやってくるという。
カーナークで一番眺めのいいトクの家の窓から双眼鏡でのぞいても、
なかなかハンターたちは現れない。
イッカク(英語ではnawhal)は、平均の体長は約5メートル、
ユニコーンのような角があるのはオスで、これは牙の一個で、
海底でエサをほじって探すときに使うのだそうだ。
牙の長さは、長いものは2メートルから2.5メートルにもなる。
インテリアとして飾られた牙は数え切れないくらい見てきた。
イッカクの肉も、マッタック(皮)も食べた。
でも、イッカクの姿そのものは、まだ見たことがなかった。
カーナークのハンター、クリスチャンに見せてもらったイッカクの解体風景。
夜半前に、トクの家から、海岸により近い、借りていた小さな黄色い家に戻った。
「デラルワ、デラルワ、デラルワ、デラルワ・・・・」「イッカクを見たい、イッカクを見たい・・・」。イッカクを見ずには、この旅を終わりにできない気がしていた。
まるで呪文のように、頭の中を、まだ見ぬイッカクの姿と名前がぐるぐる回った。
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