ニャーコンネ漂流
ニャーコンネからは、ヘリコプターでウマナックに帰るつもりだったのに、予定していたヘリコプターが飛ばないことが判明した。
乗客の予約が一人もなかった(あらかじめ予約していなかった)ので、フライトはキャンセルになったらしい。
その次の飛行機は4日後。来た道を犬ぞりで帰ることも考えたが、氷の状態が悪すぎるから、
次の飛行機を待つのがいいということになった。着の身着のままで犬ぞりに飛び乗ってしまったから、パソコンも、着替えも、
カメラのケーブルも、ビデオのバッテリーも持ってきていなかった。2日で帰るつもりが、一週間になってしまった。
冷や汗をかきながら、東京事務局と連絡をとり、予定変更となった。
佐紀子さんに電話して、ニャーコンネ漂流のことを伝えると、「本物のグリーンランドが見られるかも。
きっと、グリーンランド語も上達しますよ」と、このハプニングを喜んでいるようだった。
いったんニャーコンネ滞在が決まると、なんだか、楽しくなってきた。突然の予定変更、ルート外の小さな村で、
ゆっくり過ごすのも悪くないなと思った。
ニャーコンネ。人口約60人。 ヌークのような都市とはまるで生活のペースが違う。 英語を少し話すのは2人くらい。グリーンランド語上達には絶好の機会。
海岸で、日差しを楽しんでいるおじさん。
ニャーコンネには、「Illuvigaq(誰もが自由に出入りできる共同の家)」があり、洗濯をしたり、シャワーを浴びたり、
寝袋を持参すれば宿泊もできる。料理を作れるキッチンもある。ICE SCHOOLは、ここでイッカク漁に出かける準備をした。
ニャーコンネには、Illuvigaqと学校以外には水道がない。村に水道ができたのは8年前くらいで、
それまでは、生活用水も、飲み水もすべての水は海の氷から取ってきていたそうだ。
天気のいい日は洗濯をしに、村の人たちが入れ替わり出入りする「Illuvigaq」という共同の家。
シャワーを浴びに来たガーバ。 顔は真っ黒に日焼けしていても、首から下は色白の、典型的なグリーンランド焼け。
キーボードが置いてあり、自由に演奏して楽しめる。ブーユはとても上手だった。
家庭では、食器を洗うのも、おけにお湯をためて、洗剤を少し垂らして汚れを落とし、水で流さずにそのまま布巾(ふきん)でふき取るだけだった。
例えば4人分の食事に使う食器や鍋を洗うのに使った水は リットルほどだった。
食器の洗い方を教えてくれた、ヌカーガ。
村には一件の店がある。これは国営の「Pilersuisoq」という店で、2頭のシロクマの絵が描かれたこの店のマークは、
グリーンランドのどの村に行っても見ることができる。店の横には郵便局があり、ファックスもここから送れるし、
ヘリコプターのチケット・オフィスもかねている。店と郵便局は、同じヤンスという人物が通路を忙しく行ったり来たりしながら、
かけ持ちで接客していた。ヤンスはいい声で、いつも歌を歌っていた。イタリア・オペラからポップスまで、
たくさんのレパートリーがあるようだった。「ケセラセラ」は知っている曲だったので、一緒に歌ったりした。
「Pilersuisoq」の中。 海が氷っているときは、野菜や乳製品は手に入りにくい。 それでも、身の回りの物は充分手に入る。
女の子に大人気のバービー人形。 「アークティック・バービー(北極圏バービー)」を発見。
「インマカ」
午後、ボートにソリを乗せ、7匹の犬を乗せ、ウナトック、ハンスピーター、カリョー、ガーバの4人は、先発隊として出発した。
アイス・エッジ(氷った海の果て)は、村の海岸から2kmほどのところにあるが、
海岸からわずか200mくらいのところで、氷が大きく割れ、ボートで航行できるくらいの大きな裂け目があるので、
そこから海へ出ることができた。開いた海が終わると、氷の上に上がり、犬ぞりに乗り換えるというわけだ。
氷が裂け、海が少し開いたところまでボートを運ぶニャーコンネの若者たち。
オリョウ(オーレの愛称)、アリバット、イサク、ブーユもすぐあとに出発するはずだったが、
ボートのモーターの調子が悪く、出発は遅れそうだった。アリバットが部品をバラバラにし、調べてみると、
どうやら冷却装置に問題があることがわかった。モーターは動いても、ピピピと、警報アラームが鳴る。
村の人たちは、みな彼らの知り合いでもあるので、変わりの部品を持っている人を探し、不良部品を取り替えて試してみたが、
なかなかうまくいかなかった。
ボートの修理も自分たちでこなす。 ブーユはアリバットの作業を手伝いながら、機械のことを徐々に覚えていく。
夕方までねばったけれど、あきらめて、出発は一日延ばすことになった。計画を立てても天候やら、機械のトラブルやらなにやらで、
その通りに行かないのは珍しいことではない。グリーンランドでよく聞く言葉、知ってて便利な言葉は、「インマカ(たぶん)」。
モーターのチェックをするアリバット。 出発したくてウズウズしている様子がひしひし伝わってくる。
「明日、出かけるの?」「インマカ。」
「インマカ、今日の夜に会いましょう。」
「今日のヘリコプターのフライトはあるのでしょうか?」「インマカ。」
口の悪い人はエア・グリーンランド航空のことを「インマカ・エアライン」と呼ぶらしい。でも、イライラしても、
天気のことばかりはどうにもならない。グリーンランドでは、「ケセラセラ(なるようになるさ)」という心の持ち方が、かなり有効に働くようだ。
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