2004年4月19日

「コーヤナスアック」 ありがとう

アダムは英語を話さない。だから、本人に直接聞きたいこと、伝えたいことがあったら、 身ぶり手ぶり、知っている限りのグリーンランド語を使って、体当たりするしかない。 「あなたの、写真、あなた、新聞、書く、アユンゲラ?」 アユンゲラは、良し、good、という意味。 自信をもって発音できる数少ないグリーンランド語だ。

グリーンランドに来ていながら、ほとんどのコミュニケーションが英語で済んでしまうこと、 英語を話す人と過ごすことが多いことに、なんとなく罪悪感めいたものを感じはじめていたときに、 アダムに出会った。アダムは私に、グリーンランドを、ほんの一面だけから見ないようにね、もっとよく、 もっとじっくり見なさいね、という課題をくれたような気がしてならない。

やはり、現地の言葉、そのリズム、その呼吸を学びことは、とても大切なことだと思う。 言葉がわからない、通じない人にこそ、あえて向き合う必要があるのかもしれない。

5年くらい前、マダガスカルを旅した時、マダガスカルの言語(マラガシー)が、 全然わからなくて、私は、理不尽にもイライラして、なんだか周りの人がみな敵のように見えたりしたことがあった。

寄る辺(よるべ)のない思いで、マダガスカル内陸のフィラナランツォアという、その美しい響きの名前に似つかわしくない、 ほこりっぽい町をフラフラ歩いていると、口笛の音が聞こえてきた。ソンブレロをかぶり、 茶色いマントで、やせた体をくるっと包むんだその男の口笛のメロディーは、大好きなミュージカルのメインテーマだった。 まるで夢でもみているような思いで、通り過ぎていったマントの男の後ろ姿を、いつまでも見ていた。


バオバブの木の下で(1998年、マダカスカル)。

その同じ曲はまた、今度はグリーンランドで、着いたばかりの頃に電話したオフィスの保留音として、 受話器の向こうから流れてきた。

世界は、「メロディー」でつながっている。
世界は、「大気」でつながっている。
世界は、「インターネット」でつながっている。
世界は、「人」でつながっている。

カッコの中には、いくつの言葉が入るだろう。 きっと、数え切れないくらい、たくさんのもので、世界はつながっているのだろう。

Thank you をやめて、「コーヤナ(ありがとう)」と言うだけで、笑顔が返ってくる。 「コーヤナスアック」 どうもありがとう。
「イッヒッルッ」 こちらこそ。


人間の土地

とうとう南グリーンランドを離れる時がやってきた。 一つの土地を離れる時は、いつも胸がいっぱいになる。 ほぼ3週間ぶりに、空からグリーンランドの白い大地を眺めた。


空から眺めるグリーンランドの白い大地。

氷床に向かうヘリに乗って、空からの地球を見て以来、何かが私の中で化学変化を起こした。 そして、その後たびたび、飛行士でもあった作家、サン=テグジュペリの視線を感じるようになった。 彼のメッセージが頭に浮かび、なんども、なんども、心に響いた。

人間は、互いに結びつくように試みなければならない、人間には、絆こそが重要なのだ。

    


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