野外美術館
カコトックは町中にアートがあふれている。ピンク、黄色、緑、ブルー、赤、色とりどりの三角屋根の家々が並ぶ丘陵の
そこかしこに、自然の岩に刻まれた彫刻がほどこされている。グリーンランドだけでなく、北欧の国々からもアーティストが
やってきて、数週間滞在し、作品を残していくプロジェクトは今も続けられているそうだ。
魚、鯨を描いた壁画。
グリーンランディック・スマイル!
公園にあった、動物をモチーフにした彫刻。
観光局に行くと、3人の子供に出会った。彼女、日本から来たのよ、と観光局のカオリーナが言うと、わーっといって、
すごく驚いていた。私が写真を取りながら歩いていると、後ろから3人そろってついてくる。
町中にある彫刻を巡ろうと地図を見ていたら、3人がガイド役をかって出て、町中にちらばる彫刻を、
ひとつひとつ案内してくれた。
おまけにグリーンランド語の先生にもなってくれ、発音の悪いところは何度も直され、できるまで言い直させられた。
町を案内してくれた3人の子供たち 左からAna(アナ:9才)、Jacob(ヤコブ:8才)、Alex(アレックス:10才)
港には、市場があり、人だかり(といっても4人くらい)ができていたので行ってみると、肉の解体をしていた。
何肉?鯨?とおじさんに聞いてみると、「ホース!」だという。近くにいた英語を話す女性が、
年を取って死んだ馬の肉よ、と教えてくれた。
人だかり@港の市場。
市場で売られていた干し魚。
馬肉の解体作業。注文があると切り分ける。
毛皮工場 Great Greenland(グレート・グリーンランド)
「来月出産なの」と、大きなおなかを抱えたカオリーナに、毛皮工場を案内してもらった。
ここカコトックのグレート・グリーンランドの工場には、全国からアザラシの毛皮が集まってくる。
今年は70,000枚のアザラシの毛皮を取り扱う予定だという。70,000枚のうち50,000枚はグリーンランド、
20,000枚はカナダから輸入している。
毛布工場を案内してくれた、カオリーナ。 パッチワーク風に縫い合わせた、
色鮮やかなアザラシの毛皮。
扱うアザラシは、
リング・シール(小さい種、背中にわっかのような模様がある)、
コモン・シール(グリーンランド伝統のブーツ:カミック、ズボンになる)、
ハープ・シール(カナダで生まれ、成長するとグリーンランドに泳いでくる)、
フード・シール(鼻に赤い風船のようなコブを持ち、大きなものは2メートルにもなる)の4種類。
猟師からは、毛皮を広げて伸ばした状態で届くが、それを製品にするまでには33の行程が必要で、最低3週間、
毛染めをすると4週間はかかるという。
木くずや塩を使って、洗っては乾かし、洗っては乾かすことおよそ16回。
工場には大きなドラム式洗濯機のような設備があり、
グルングルン音を立てて回っていた。
アザラシの毛皮は、このように干される。
その後、選別室で、A、B、C、Dと毛皮の品質によって選別される。毛が長く、なめらかで、
穴の開いていないものが一番上物で、
質のいいものは、グリーンランドの西海岸の町とデンマークに送られ、そこで毛皮オークションにかけられる。
工場にも、裁断・縫製室があり、たくさんのミシンが並んでいた。毎年、
デンマーク人のデザイナーが最新モデルをデザインするそうだ。
手袋、バック、コート、ミニスカートとおへその出るような上着のセットなど、様々な製品を作っている。
グリーンランドでは、アザラシは人間が生きていくのに欠かせない食料として、肉も内臓も皮もすべて無駄なく使われる。
毛皮は、肉を食べた後の副産物であり、猟師にとっては貴重な現金収入だ。
カオリーナが、先週ラジオで、カナダ北極圏では今年は300,000匹のハープ・シールを獲る予定だというニュース聞いたと、
憂(うれ)いでいた。以前グリーンピースが、毛皮のために、
白くてフワフワした毛をしているハープ・シールの子供が撲殺(ぼくさつ)されるのを反対する、
世界的大キャンペーンを打って以来、アザラシの毛皮の値段が大暴落し、猟師たちの生活と文化、
グリーンランドの経済は大きな打撃を受けている。
その後、やや市場は回復の兆し(きざし)を見せたが、かつての水準にはとうてい及ばないという。
また今年カナダで大量な
捕獲(ほかく)が行われると、グリーンランドにも影響があるかもしれないということだった。
アザラシの毛皮市場の問題は、漁業にも影響を与えている。大人のアザラシは一日に30キロもの魚を食べるので、
アザラシが増えすぎると、
魚が減ってしまうという問題も起こっているらしい(Greenland Institute of Natural Resoucesのクリスチアーナより)。
グリーンランドのイヌイットは生きるために、アザラシを獲ってきた。必要な分だけを頂き、感謝を捧げ、
自らの命をはぐくんできた。
国際的な市場経済のうねりの中にあっても、大切な伝統文化に誇りを持ち、
それを守り抜いていきたいというグリーンランドの人々の思いは、
もうすでにひしひしと伝わってきている。
これから北へ向かい、実際にアザラシを獲る猟師に会って、彼らの話をもっと聞いてみたいと思う。
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