2004年4月13日

野外美術館

カコトックは町中にアートがあふれている。ピンク、黄色、緑、ブルー、赤、色とりどりの三角屋根の家々が並ぶ丘陵の そこかしこに、自然の岩に刻まれた彫刻がほどこされている。グリーンランドだけでなく、北欧の国々からもアーティストが やってきて、数週間滞在し、作品を残していくプロジェクトは今も続けられているそうだ。


魚、鯨を描いた壁画。


グリーンランディック・スマイル!


公園にあった、動物をモチーフにした彫刻。

観光局に行くと、3人の子供に出会った。彼女、日本から来たのよ、と観光局のカオリーナが言うと、わーっといって、 すごく驚いていた。私が写真を取りながら歩いていると、後ろから3人そろってついてくる。 町中にある彫刻を巡ろうと地図を見ていたら、3人がガイド役をかって出て、町中にちらばる彫刻を、 ひとつひとつ案内してくれた。 おまけにグリーンランド語の先生にもなってくれ、発音の悪いところは何度も直され、できるまで言い直させられた。


町を案内してくれた3人の子供たち
左からAna(アナ:9才)、Jacob(ヤコブ:8才)、Alex(アレックス:10才)

港には、市場があり、人だかり(といっても4人くらい)ができていたので行ってみると、肉の解体をしていた。 何肉?鯨?とおじさんに聞いてみると、「ホース!」だという。近くにいた英語を話す女性が、 年を取って死んだ馬の肉よ、と教えてくれた。


人だかり@港の市場。


市場で売られていた干し魚。


馬肉の解体作業。注文があると切り分ける。


毛皮工場 Great Greenland(グレート・グリーンランド)

「来月出産なの」と、大きなおなかを抱えたカオリーナに、毛皮工場を案内してもらった。 ここカコトックのグレート・グリーンランドの工場には、全国からアザラシの毛皮が集まってくる。 今年は70,000枚のアザラシの毛皮を取り扱う予定だという。70,000枚のうち50,000枚はグリーンランド、 20,000枚はカナダから輸入している。


毛布工場を案内してくれた、カオリーナ。
パッチワーク風に縫い合わせた、 色鮮やかなアザラシの毛皮。

扱うアザラシは、
リング・シール(小さい種、背中にわっかのような模様がある)、
コモン・シール(グリーンランド伝統のブーツ:カミック、ズボンになる)、
ハープ・シール(カナダで生まれ、成長するとグリーンランドに泳いでくる)、
フード・シール(鼻に赤い風船のようなコブを持ち、大きなものは2メートルにもなる)の4種類。

猟師からは、毛皮を広げて伸ばした状態で届くが、それを製品にするまでには33の行程が必要で、最低3週間、 毛染めをすると4週間はかかるという。 木くずや塩を使って、洗っては乾かし、洗っては乾かすことおよそ16回。 工場には大きなドラム式洗濯機のような設備があり、 グルングルン音を立てて回っていた。


アザラシの毛皮は、このように干される。

その後、選別室で、A、B、C、Dと毛皮の品質によって選別される。毛が長く、なめらかで、 穴の開いていないものが一番上物で、 質のいいものは、グリーンランドの西海岸の町とデンマークに送られ、そこで毛皮オークションにかけられる。

工場にも、裁断・縫製室があり、たくさんのミシンが並んでいた。毎年、 デンマーク人のデザイナーが最新モデルをデザインするそうだ。 手袋、バック、コート、ミニスカートとおへその出るような上着のセットなど、様々な製品を作っている。

グリーンランドでは、アザラシは人間が生きていくのに欠かせない食料として、肉も内臓も皮もすべて無駄なく使われる。 毛皮は、肉を食べた後の副産物であり、猟師にとっては貴重な現金収入だ。

カオリーナが、先週ラジオで、カナダ北極圏では今年は300,000匹のハープ・シールを獲る予定だというニュース聞いたと、 憂(うれ)いでいた。以前グリーンピースが、毛皮のために、 白くてフワフワした毛をしているハープ・シールの子供が撲殺(ぼくさつ)されるのを反対する、 世界的大キャンペーンを打って以来、アザラシの毛皮の値段が大暴落し、猟師たちの生活と文化、 グリーンランドの経済は大きな打撃を受けている。

その後、やや市場は回復の兆し(きざし)を見せたが、かつての水準にはとうてい及ばないという。 また今年カナダで大量な 捕獲(ほかく)が行われると、グリーンランドにも影響があるかもしれないということだった。

アザラシの毛皮市場の問題は、漁業にも影響を与えている。大人のアザラシは一日に30キロもの魚を食べるので、 アザラシが増えすぎると、 魚が減ってしまうという問題も起こっているらしい(Greenland Institute of Natural Resoucesのクリスチアーナより)。

グリーンランドのイヌイットは生きるために、アザラシを獲ってきた。必要な分だけを頂き、感謝を捧げ、 自らの命をはぐくんできた。

国際的な市場経済のうねりの中にあっても、大切な伝統文化に誇りを持ち、 それを守り抜いていきたいというグリーンランドの人々の思いは、 もうすでにひしひしと伝わってきている。 これから北へ向かい、実際にアザラシを獲る猟師に会って、彼らの話をもっと聞いてみたいと思う。

    


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