ナルサスアック・メモ
天候に、その日の行動が左右されるのは、氷床縦断に限らない。ここナルサスアックも、
もう4日雨が降り続いている。空港のオフィスに行って、飛行機の状況を訪ねると、
コペンハーゲンからの直行便はは2日続けて飛べず、路線は、
カンゲルッスアーク→ヌーク→ナルサスアックというルートに変更されたということだった。
ナルサッアックでは、4日間雨が降り続いた。
ナルサスアックの歴史は、1941年、第二次世界大戦時に米軍基地としてつくられたことに始まる。
1945年頃の最盛期には、大西洋を渡る爆撃機の中継地として、
12,000人の人口を抱えるグリーンランド最大の町だった。(ほとんどが米軍関係者だったが)
街の片隅にあった、第二次大戦時を偲ばせる残骸。
戦時中使われていた、アメリカ空軍の通信機器。
ナルサスアック空港は滑走路が長く、海外からの大型のジェット機が発着できるため、
グリーンランドの南の玄関口となっている。現在の住民は、120人ほど。空港関係者や、
観光業に携わる人たちと、その家族がひっそりと暮らしている。
町の博物館には、兵器の残骸、通信機器、娯楽場にあったスロット・マシーン、
モノクロの写真などがところ狭しと展示してある。そこから伝わるにぎわいと、
基地が去ったあと、潮が引いたように、空港と雄大な自然だけが残ったナルサスアックの今とが対照的だった。
当時の大スター、マレーネ・ディートリッヒも第二次大戦時、慰問に訪れた。
広くてせまいグリーンランド
空港の滑走路と並ぶような形で、町には一本の道が通っていて、すべての施設、
家々はその道沿いにある。だから、外に出て町を歩いていると、必ず知り合いに出会う。
午後、空港オフィスに行った帰りには、レインコートを着て犬たちの散歩をするBertha(ベッタ)に会った。
昨晩、メールで送ったバースデー・カードをとても喜んでくれていた。日本の文字がとても美しくて、
さっそくプリントアウトして、楽しんだ、と言っていた。
ベッタに送ったカード。 日本語で「お誕生日おめでとう」。
北欧諸国は、通信が発達してると聞いていたけれど、グリーンランドも例外ではないようだ。
長い冬は雪と氷に閉ざされ、移動が不便になるので、
インターネットという情報交換手段が浸透するのが早かったらしい。
携帯電話も普及していて、Hugo(ヒューゴ)の小学生の娘たちも一人一台ずつ持っている。
夕方、港の方に散歩に行った帰りには、そのHugoの上の娘、Aima(アイマ)に出くわした。
ハロー!ハロー!と遠くから呼ぶ声がしたので辺りをぐるっと見渡すと、
Aimaが友達と一緒にどこかの家から出てくるところだった。
首元には、夕べ、kaffemik(カフェミック)のときにプレゼントした、日本の小さなキャラクターの飾りをつけていた。
Aimaと友達のInumineq(イヌミネック)。
11歳と12歳、日本語に興味津々。
Aimaはグリーンランド語を、私は日本語を、互いに教えあっているけれど、12歳のAimaの好奇心の強さと、
吸収力の早さは驚くほどで、私は大いに遅れをとっている。
Aimaって、日本語でどう書くの?
日本語のABCを教えて!
とグリーンランド語で、積極的に聞いてくる。私が何?という顔をすると、
すぐに英語のできる人を引っ張ってきて、自分の思いを伝えさせていた。
ひらがなの五十音表に、あ「a」、い「i」、ま「ma」のようにローマ字で発音を書いた紙をあげると、
さっそく自分の家族や友達の名前を調べて、ひらがなで書いていた。
散歩でだいぶ疲れたので、たまには外食しようと、ホテル・ナルサスアックのカフェで夕ご飯を食べていると、
「あれ!」という感じで、Arne(アーネ)が入ってきた。本当に、約束もしていないのに、毎日会う。
聞きたいことがあったので、電話しようかな、と思っていたところだったのに、
そんな必要もないのがナルサスアックだった。
昨日、TELE Greenlandの電話帳をめくっていたら、Siorapaluk(シオラパルク)のところに、
大島育雄さんの名前を見つけた(大島さんは、30年前からグリーンランドに住む日本人)。
まさか、と思って、すぐにJacky(ジャッキー)に聞いてみた。
もしかして、これ一冊にグリーンランド中の電話番号がのってるの?
そうだよ。一冊で十分なんだよ。便利だろ、と言われた。
これ一冊で、間に合う電話帳。
グリーンランドの人口は、およそ56,000人。
もし、東京ドームが満員になると50,000人。
比べてみると、その差に驚く。
この一週間で、グリーンランド人はみんな知り合い同士なんじゃないか、
と思うようなことが多々あった。特に出身地が同じなら、たいていは知り合いか、
どこかでつながっていると思ってもいいかもしれない。
この週末から5日間ほど、いったんナルサスアックを離れ、さらに南の町、カコットッに行く。
そこでは佐紀子さんの友人のAleqa(アレカ)に会うことになっている。
Aleqaはウマナック出身と聞いていたので同じウマナック出身のArneに、
Aleqaって知ってる?と聞いてみた。すると、案の定知っていて、昔なじみだよ。
彼女今どこに住んでるの?と言って、懐かしそうな目をした。
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